【犬追物図屏風】筆者不詳‐東京国立博物館所蔵

【犬追物図屏風】筆者不詳‐東京国立博物館所蔵

犬追物(いぬおいもの)は、江戸時代の武士の修練や遊戯の一環として行われていた弓術の一つであり、その名の通り、弓を使って犬を射る技術を指します。この技術は、実際には武士が騎乗しながら行うもので、弓術の技巧を磨くための訓練であり、また、その一方で競技や遊戯としても行われていました。

犬追物は、その起源を平安時代や鎌倉時代に求めることができますが、特に江戸時代に入ると、武士たちの修練の一環として定着し、また貴族の遊戯や文化的な表現としても発展しました。この時期には、犬追物は形式的な競技や儀式としても行われ、各藩や武士の家でもその技術の向上が重要視されました。

犬追物には「縄の犬」と「外の犬」という2つの主要な形式が存在し、これらの競技では犬が縄で囲まれた範囲内を走る「縄の犬」と、縄の外に出た犬を射る「外の犬」という二つのシチュエーションが描かれます。この技術を磨くことによって、弓術の腕前を証明することができ、また騎乗の際の精度や機敏さを鍛えることができました。

「犬追物図屏風」は、江戸時代の18世紀に制作された屏風で、犬追物を描いた絵画です。筆者は不詳であり、具体的な作成者は不明ですが、その絵画的表現には江戸時代の美術の特徴が色濃く反映されています。この屏風は、犬追物の競技の一場面を鮮やかに描いており、その構図や色使い、人物描写において、江戸時代の武士社会とその文化を理解する上で重要な資料となっています。

屏風の構成は、右側に「縄の犬」、左側に「外の犬」を描いているのが特徴です。このように、犬追物の競技が二つの異なる局面で表現されることで、その競技性や技術的な側面が強調されています。

また、この作品には、武士の騎乗姿勢や弓の扱い方、犬の動きなどが詳細に描かれており、弓術や騎乗技術のリアルな再現が試みられています。江戸時代の武士たちがどのようにして弓術を修練していたか、その一端を垣間見ることができる貴重な作品です。

犬追物図屏風は、紙本金地着色の技法で制作されています。この技法は、金箔を背景に施し、その上に色を塗ることで豪華さを演出するものです。金地が使用されることで、絵画全体に光沢があり、観る者に豪華さや格式を感じさせます。金の背景に対して、登場人物や犬、騎乗の武士たちは鮮やかな色で描かれており、そのコントラストが美しい効果を生んでいます。

画面の中央には、犬追物の競技が展開されており、競技の場面が緻密に描写されています。特に武士たちの表情や弓を引く姿勢、馬上での動きが細部まで描かれており、弓術の技術的な部分を強調しています。また、犬の動きも非常にリアルで、まるでその場で犬が駆け回っているかのような臨場感を感じさせます。

犬追物の競技には、「縄の犬」と「外の犬」という2つの形式が存在します。この屏風には、その両方が描かれており、それぞれの形式の特徴が際立っています。

右側の部分に描かれている「縄の犬」では、太い縄の円形の内側に犬が放たれ、その犬を射る弓術の技が描かれています。この「縄の犬」の形式は、犬が制限された範囲内を走り回るため、弓を引く者の精度やタイミングが非常に重要です。競技者は、犬が縄の中をどのように走るかを読み取り、的確に矢を放つ必要があります。このように、犬追物はただの射撃技術を競うだけでなく、犬の動きや競技の進行を予測する能力も求められました。

左側の部分に描かれている「外の犬」では、縄の外に出た犬を射るという形式が描かれています。この形式では、犬が縄の制限を超えて自由に動き回り、その動きに対応するためには、弓術の技術だけでなく、馬の速さや柔軟な判断力も必要です。犬が外に出た瞬間、射手はその動きを捉え、迅速に矢を放たなければならないため、競技者にとっては非常に高い技術が要求されます。

この「外の犬」の場面では、犬の躍動感と同時に、騎乗して矢を放つ武士たちの姿が描かれ、その動きがまるで流れるように表現されています。武士の姿勢や、矢を放つ瞬間の緊張感が画面から伝わってきます。

犬追物図屏風は、江戸時代の武士社会における文化的な意義を反映しています。この時代、武士は単なる戦闘員としての役割にとどまらず、文化的な教養を身につけることが重視されていました。弓術や騎乗技術の習得は、武士としての基本的な能力として求められ、犬追物もその一環として行われていました。

また、犬追物は単なる訓練や競技にとどまらず、武士たちが自身の腕前を誇示するための場でもありました。競技の形式や精度、馬の扱い方などは、武士としての威厳を示す手段として重要でした。このため、犬追物の絵画作品は、武士社会の価値観や文化的な嗜好を反映するものであり、当時の社会背景を知る上でも貴重な資料となっています。

「犬追物図屏風」は、江戸時代の弓術や騎乗技術を美しく描いた絵画であり、その芸術的な価値と歴史的な意義は非常に高いものです。犬追物という競技は、単なるスポーツや遊戯にとどまらず、武士たちの修練や精神的な鍛錬の一環であり、江戸時代の武士社会の文化や価値観を理解するための貴重な手がかりとなります。この屏風を通じて、当時の弓術や武士の精神、そして江戸時代の美術の特徴を深く知ることができるでしょう。

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