【ルイス・キャロル著「スナーク狩り」のために】マックス・エルンスト‐東京国立近代美術館所蔵
- 2025/4/25
- 2◆西洋美術史
- マックス・エルンスト
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ルイス・キャロルの「スナーク狩り」は、19世紀のイギリスの作家であるルイス・キャロル(本名:チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)によって1876年に発表された詩であり、奇妙で幻想的な要素を多分に含んだ作品です。キャロルはその独特なユーモアとナンセンスの世界を作り上げ、読者に強い印象を残しました。この詩は、彼の代表作である『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』に通じる不条理な世界観を共有し、後世の文学や芸術に多大な影響を与えました。
その後、この詩は多くの芸術家にインスピレーションを与え、特に20世紀のシュルレアリスム運動において、そのナンセンスで夢幻的な要素が強調されました。シュルレアリスムは、現実と夢、論理と無秩序、常識と狂気が交錯する世界を描き、キャロルの「スナーク狩り」にはまさにその要素が詰まっていました。シュルレアリスムの芸術家たちは、この詩を解釈し、自らの表現に取り入れることによって、新たな視覚的な作品を創造しました。
その中で、特に注目すべきはドイツ出身の画家マックス・エルンストによる「ルイス・キャロル著「スナーク狩り」のために」(1950年)という作品です。この絵は、シュルレアリスムの代表的な作家であるエルンストの独自の手法であり、またキャロルの「スナーク狩り」の詩のビジュアル化としても非常に重要な作品です。エルンストは、この作品を通じて詩的な世界を視覚的に表現し、シュルレアリスムの特徴である無意識の表現や夢幻的なビジョンを具現化しました。
マックス・エルンストは、シュルレアリスムの重要な画家であり、またその運動の創始者の一人でもあります。シュルレアリスムは、20世紀初頭のヨーロッパで生まれた芸術運動で、特に夢や無意識、非論理的な世界を重視しました。エルンストは、その作品において現実と幻想が交錯し、時には現実の枠を超えたイメージを描くことによって、観る者を新たな視覚的・精神的な次元へと導きました。彼の作品には、奇妙な生物や幻想的な風景、異常な構図が多く見られ、観る者に夢のような感覚を与えることが特徴です。
エルンストの絵画の中でも、特に彼の「フロッタージュ」技法が重要な役割を果たしています。フロッタージュとは、紙を表面が凹凸のある物体の上に置き、鉛筆などでこすりながら描く技法で、無意識的に生まれる形や模様をそのまま作品に取り入れる方法です。この技法は、エルンストが無意識の領域を表現する手段として用い、シュルレアリスムの精神に基づく作品作りを実現しました。
ルイス・キャロルの「スナーク狩り」は、特異な冒険を描いた詩で、登場人物たちが「スナーク」という神秘的な存在を捕まえようとする物語です。この詩には、非常に多くの謎と不条理が含まれており、キャロル特有のユーモアと遊び心が反映されています。スナーク自体は実際には登場せず、登場人物たちが次々に失敗するという構図になっており、この作品が持つ根本的なテーマは「不確実性」と「無駄な試み」に関するものです。
詩の中でスナークは捕えることができるかどうかが最後まで分からず、その正体すらも曖昧なままです。この不確実性が、シュルレアリスムの芸術家たちには魅力的に映り、彼らはこの不条理な世界を視覚的に表現しようとしました。
マックス・エルンストが1950年に制作した「ルイス・キャロル著「スナーク狩り」のために」は、まさにこの詩的な世界を具現化したものです。エルンストは、フロッタージュ技法を駆使して、「スナーク狩り」の幻想的かつ夢幻的な世界を表現しました。エルンストの作品には、詩の中の登場人物やシーンが直接的に描かれているわけではなく、むしろそのテーマや精神が強調されています。
絵画の中には、スナークを追い求めるキャラクターたちの姿は描かれず、代わりにその追跡を象徴するような抽象的なイメージや奇妙な形態が現れます。これにより、エルンストはキャロルの詩における不確実性や不条理な世界を視覚的に強調しています。スナークの存在自体がぼんやりとしたイメージとして描かれることにより、観る者はこの神秘的な生物が何であるかを直接的に知ることはできず、詩の不確実性がそのまま絵画の中に反映されています。
エルンストの「スナーク狩り」のためにという作品は、シュルレアリスムの理論に基づくものです。シュルレアリスムの芸術家たちは、無意識や夢を表現するために、従来の表現方法を捨て、無秩序や偶然性を重視しました。エルンストは、フロッタージュ技法を使って偶然に生まれた形や模様を作品に取り入れ、それによって無意識の表現を試みました。この方法は、シュルレアリスムの「自動記述」の概念と共鳴し、観る者に新たな視覚的な体験を提供します。
「スナーク狩り」のためにという絵画も、観る者にとってはまさに夢の中での冒険のような感覚を与えます。キャロルの詩が持つ不安定で不確かな要素は、エルンストの作品において視覚的に強調され、観る者に深い印象を与えるのです。
マックス・エルンストの「ルイス・キャロル著「スナーク狩り」のために」は、シュルレアリスムの典型的な特徴を持ち、キャロルの詩が持つ不確実性と幻想性を視覚的に表現した作品です。エルンストは、フロッタージュ技法を駆使して、観る者に新たな視覚的な体験を提供し、詩の内容をそのまま描くのではなく、その背後にある感覚を強調しました。この作品は、シュルレアリスムの理念を体現し、またルイス・キャロルの「スナーク狩り」を新たな視覚的言語に変換する試みとして、20世紀の芸術における重要な位置を占めています。
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