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【「聖ステパノ伝」を表した祭壇画 プレデッラ3点】マリオット・ディ・ナルドー国立西洋美術館収蔵
- 2024/11/18
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「聖ステパノ伝」を表した祭壇画のプレデッラ3点は、マリオット・ディ・ナルドによって1408年に制作され、国立西洋美術館に収蔵されています。この作品群は、イタリア中世後期に盛んに作られた大型の多翼祭壇画(ポリプティク)の下部に位置する「プレデッラ」と呼ばれる部分を形成しています。元々、これらの絵画は左から右へと(3)-(4)-(5)の順で並び、聖ステパノという一人の聖人の生涯を物語として展開しています。
マリオット・ディ・ナルドは、この祭壇画をフィレンツェ近郊のサント・ステーファノ・イン・パーネ聖堂の世俗同信会の礼拝堂のために制作しました。しかし、時が経つにつれて、この祭壇画は分散してしまいました。他のパネルは、現在アメリカのミネアポリス美術研究所、ポール・ゲッティ美術館、グランド・ラピッズ美術館に所蔵されています。このような歴史的な経緯は、作品が持つ文化的価値を一層引き立てています。
この作品は、初期キリスト教の聖人である聖ステパノの生涯を描いています。聖ステパノの物語は、新約聖書の「使徒行伝」や中世の聖人伝「黄金伝説」に詳述されています。彼はエルサレムのユダヤ法院で説教を行い、キリストを処刑した人々の頑迷をとがめた結果、石で打ち殺され、キリスト教の最初の殉教者となりました。この背景は、作品の物語性を深め、観る者に強い印象を与えます。
3点の作品は、建築モティーフや風景モティーフによってほぼ均等に左右に分けられ、合計6つのエピソードを描いています。以下にそれぞれのエピソードを詳述します。
1.(3)左側:ステパノは青い助祭服を着て、多くの女性に囲まれて説教しています。ここでは、異教徒の2人の老人がステパノと議論をするものの、対抗できずにいます。このシーンは、聖ステパノの説教の力強さを強調しており、彼の信仰とカリスマ性を表現しています。
- (3)右側:ステパノは大勢の老人に囲まれ、ユダヤ法院の建物の中にいます。ここでは、聖者が大祭司と長老たちを論難している場面が描かれています。対立の緊張感が伝わる構図で、聖ステパノの神聖さと人間の頑迷さが対比されています。
- (4)左側:激怒した人々によって石で打たれ、殉教するステパノが描かれています。この瞬間は、彼の信仰の深さと殉教者としての運命を強く印象づけるものです。
- (4)右側:埋葬されるステパノの姿が描かれています。このシーンでは、悲しみに沈む人々の姿が強調され、彼の死がもたらす影響を表現しています。
- (5)左側:エルサレムに滞在していた総督の妻ユリアナが、夫の遺骨と誤ってステパノの遺体を舟でコンスタンティノポリスに運ぶ場面が描かれています。この航海の間に、悪魔が嵐を起こすというドラマティックな展開が描かれ、物語の緊迫感を増しています。
- (5)右側:テオドシウス帝の命により、ステパノの遺体がコンスタンティノポリスからローマに移され、聖ラウレンティウスの遺体とともに合葬される場面です。ここでは、聖人たちの聖性が強調され、信仰の連続性が示されています。
この作品群は、イタリア後期中世の物語画の典型を示しています。生き生きとしたテンペラ絵具の色彩は、視覚的な魅力を生み出し、観る者を惹きつけます。また、中世的な空間構成が使われており、物語が横方向に展開される様子は、まるで絵巻物のようです。特に、3番目の作品に見られる海景の描写や埋葬の場面における人物たちの性格づけの巧みさは、このパネルを特に魅力的なものにしています。
「聖ステパノ伝」を表した祭壇画のプレデッラ3点は、聖ステパノの生涯を鮮やかに描き出し、初期キリスト教の信仰や殉教の精神を伝える重要な作品です。時を経て分散したものの、それぞれのエピソードが持つ物語性と視覚的な魅力は、今日においても多くの人々を惹きつけています。マリオット・ディ・ナルドの技法や表現力は、後期中世の芸術の一端を理解する上で欠かせない要素となっており、作品の持つ価値は決して色褪せることはありません。
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