【アトラス坐像】パキスタン・マルダン地区|クシャーン朝・2〜3世紀|片岩|加藤宏氏寄贈－常設展－東京国立博物館

パキスタンのマルダン地区は、かつてクシャーン朝の支配下にあった地域で、古代ガンダーラ地域の一部です。クシャーン朝は紀元1世紀から3世紀にかけて栄えた王朝で、ギリシャ系の文化とインドの伝統的な文化が融合した独自の芸術様式を発展させました。この時代にマルダン地区で制作された「アトラス坐像」もその代表的な作品の一つです。

「アトラス坐像」とは、ギリシャ神話に登場する巨人アトラスをモチーフにした仏像を指します。アトラスはギリシャ神話において、天を背負う役割を持つ巨人として知られています。クシャーン朝の芸術では、アトラスの姿を仏教の菩薩像に取り入れ、特徴的な姿勢で表現したのが「アトラス坐像」として知られるようになりました。

これらのアトラス坐像は、粘土質の岩石や石材を使って制作されました。仏像彫刻としての特徴として、仏陀の体のプロポーションや装飾に細部へのこだわりが見られ、彫刻家の高い技術が表れています。

また、アトラス坐像は、ギリシャ神話と仏教の哲学や宗教が融合した作品として特徴的です。これはガンダーラ地域が古代ギリシャとインドの文化が交わる場所であり、芸術の影響が双方に及んだためです。アトラス坐像においては、アトラスの特徴的な姿勢とギリシャ的な要素が、仏教美術の枠組みの中で表現されています。

これらのアトラス坐像は、ガンダーラ美術の重要な遺産として、パキスタンのマルダン地区やその周辺で発見・保存されています。これらの美しい仏像は、古代の芸術と文化の交流を物語る重要な作品として、美術史や仏教学の研究においても注目されています。