【桜花図巻】跡見玉枝‐東京国立近代美術館所蔵

【桜花図巻】跡見玉枝‐東京国立近代美術館所蔵

「桜花図巻」は、1934年(昭和9年)に描かれた跡見玉枝の代表作で、現在は東京国立近代美術館に所蔵されています。この絵巻は、全25面から成り、絹本に彩色された美しい作品で、桜の多様性をテーマにしています。特に桜の枝を描き、それぞれに金泥で名称が記されており、見る者に強い印象を与えます。作品には40種類を超える桜が描かれ、玉枝が桜に対して博物学的な関心を持っていたことがうかがえます。この絵巻は、単なる美的表現にとどまらず、桜に対する深い知識と愛情を込めて描かれており、桜の品種ごとに異なる特徴を捉えています。

玉枝は、桜を題材にした画帖を皇室に献上したことがあり、この「桜花図巻」にもその影響が色濃く表れています。彼女の桜へのこだわりと深い愛情は、彼女の芸術家としての姿勢を象徴するものであり、桜を描くことで日本の自然美、文化、そして自身の芸術的な感性を表現しています。

「桜花図巻」は、その名の通り桜の花を主題にした絵巻です。巻物として作られており、全25面の中に桜の枝が描かれています。各面には、桜の品種名が金泥で記され、桜の花の形や色合い、枝ぶりなどが丹念に描写されています。特に、巻頭の右端には、「にほひさくら」、「黄金桜」、「こむらさきさくら」といった桜の品種名が書かれており、その後に続くページにも様々な桜の品種が順に描かれています。合計40種類以上の桜が登場し、それぞれの特徴が細かく表現されています。
桜は日本人にとって非常に重要な花であり、春の象徴とも言えます。桜の花は、その美しさと儚さ、そして季節の移ろいを象徴する存在です。玉枝は、この桜を描くことで日本の自然や風物詩を絵画として表現するとともに、桜の品種ごとの違いを明確に描き分けることで、視覚的に桜の多様性を伝えています。

跡見玉枝は、桜に対する深い知識と関心を持っていたことが、この「桜花図巻」に強く表れています。桜の品種は、自然の中で多様に存在しており、その形状や色合いは微妙に異なります。玉枝は、桜を単なる美しい花としてではなく、細かな品種の違いや生態を捉えることに注力していました。この絵巻に登場する桜は、ただ美しい花としてではなく、植物学的にも価値のあるものとして描かれています。

例えば、巻頭に描かれている「にほひさくら」は、桜の香りを強調した品種であり、その香りの特徴を視覚的に表現しようとした意図が感じられます。また、「黄金桜」は、その名の通り、黄金色に近い花を持つ桜で、玉枝はその色味を忠実に再現しています。これらの描写は、桜に対する単なる美的感覚を超えた、より深い知識と関心を示しているのです。

玉枝は、1930年(昭和5年)に、恩師の和歌50首に桜50種を描き添えた画帖を皇室に献上しました。この画帖は、現在では所在が不明となっていますが、その内容は「桜花図巻」と非常に類似していると考えられています。この画帖には、桜の美しさや多様性が同じように描かれており、玉枝が桜に対して非常に深い愛情を抱き、その美しさを伝えようとしていたことがうかがえます。

この画帖の献上は、玉枝が桜という日本の象徴的な植物にどれほど強い関心を持ち、その美しさを広く伝えようとしたかを示す一つの証拠です。また、皇室に献上されたことは、玉枝の芸術家としての地位を象徴しており、その後の作品にも大きな影響を与えたことでしょう。

「桜花図巻」の技法には、絹本に彩色を施すという伝統的な手法が用いられています。絹本は、滑らかな表面が特徴で、絵具が染み込むことなく鮮やかな色を保つことができます。このため、桜の花の繊細な色合いや、枝の質感が非常に美しく表現されています。金泥で書かれた品種名は、桜の花の美しさと相まって、作品に華やかさと格調を与えています。

また、桜の花や枝の描写には、細かな筆致が見て取れます。玉枝は、桜の花をただの象徴として描くのではなく、その微細な特徴まで丁寧に表現しています。花びらの一枚一枚、枝の曲がり具合、葉の形など、自然の精緻な構造を忠実に再現し、視覚的に桜の多様性と美しさを引き立てています。

桜は、単なる花としてだけではなく、日本文化における深い象徴性を持っています。桜は、春の訪れを告げる花であり、その咲き誇る様子は、人生の儚さや美しさを象徴するものとして古くから描かれてきました。また、桜の花は、日本人の心に深く根付いており、詩や歌、絵画において重要なモチーフとして用いられています。

玉枝は、この桜の象徴性を理解した上で、桜の品種ごとの違いを描くことで、桜が持つ豊かな意味を視覚的に表現しようとしたのです。桜の多様性を描くことによって、玉枝は桜が日本人にとってどれほど大切で、象徴的な存在であるかを強調しているのです。

「桜花図巻」は、跡見玉枝が桜という日本の象徴的な花に対して抱いていた深い愛情と博物学的な関心を表現した作品です。桜の品種ごとに異なる特徴を捉え、色合いや形状の違いを細かに描写することによって、玉枝は桜の美しさと多様性を視覚的に表現しました。この絵巻は、単なる美術作品にとどまらず、桜が持つ文化的、象徴的な意味を深く掘り下げることに成功しています。また、彼女の桜への愛情は、皇室への画帖の献上や、桜に関する博物学的な知識からも伺えます。「桜花図巻」は、桜の花の美しさだけでなく、その背後にある文化的な背景をも伝える重要な作品と言えるでしょう。

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