【ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション】カジミール・マレーヴィチーロシア国立博物館所蔵

【ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション】カジミール・マレーヴィチーロシア国立博物館所蔵

「ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション」は、1914年にカジミール・マレーヴィチによって、制作され、ロシアの現代美術史において非常に重要な作品です。この絵画は、レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な「モナ・リザ」を基にしており、マレーヴィチがどのようにして西洋美術の伝統的な枠組みを超え、新しい芸術運動への移行を試みたかを象徴しています。特に、マレーヴィチが彼の後の「スプレマティスム」の発展に向けてどのように形を変え、アプローチを試みたかを理解する上で、この作品は重要な手がかりを提供します。

1914年という年は、マレーヴィチの芸術的変革が最も顕著に現れる時期でした。ロシアにおける政治的・社会的な動乱、そして第一次世界大戦の勃発など、時代背景も作品に大きな影響を与えました。その中で、マレーヴィチは西洋美術の伝統に対する反発と、近代的な芸術形式の探求を続けていました。特に、「モナ・リザ」という歴史的な名作に対するマレーヴィチのアプローチは、彼がどのようにして古典主義から脱却し、未来的で実験的な芸術形式に移行しようとしていたかを示しています。

「ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション」の制作に際して、マレーヴィチはダ・ヴィンチの「モナ・リザ」の肖像を描くことからスタートしましたが、そこに幾何学的な形態やボリュームを重ね、肖像を一部覆い隠すように描きました。このような手法は、マレーヴィチが古典的な美術に対する解釈をどのように変えたのかを理解するための重要な鍵です。彼は古典的な肖像画を解体し、伝統的な表現方法から解放された、新たなビジュアル言語を探求していたのです。

マレーヴィチが「モナ・リザ」の顔を隠すように配置した幾何学的形態は、まさに彼が古典的な肖像画に対して挑戦し、視覚的にそれを超えていこうとする試みの表れです。具体的には、モナ・リザの顔の一部が黒と白の矩形(長方形)で隠され、これらの形態はモナ・リザの肖像と同じレベル、もしくはそれよりも少し上に配置されています。この構図により、マレーヴィチはダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を単なる肖像画としてではなく、同じ芸術作品として評価し、それを幾何学的な形態と同等の価値として扱っています。この方法によって、彼は「モナ・リザ」の絶対的な権威を覆し、伝統的な美術の枠を破ろうとしているのです。

また、これらの幾何学的形態は、単に形を並べたものではなく、動的に空間を占めるような印象を与えます。形態が絵画の中で移動し、変化するように見えることで、マレーヴィチは視覚的な動きと空間の新しい理解を提示しました。これこそが、彼のスプレマティスムへの道を切り開く重要な一歩でした。

絵画の中には「部分日食」という言葉が描かれています。この言葉は、1914年に実際に起こった日食を指すものですが、単なる自然現象としての意味を超えて、マレーヴィチの芸術的な立場を象徴するものとして解釈することができます。日食は、太陽が隠れることによって生じる神秘的な現象であり、マレーヴィチはこの自然現象を通して、彼自身の芸術的な「隠蔽」や「消失」を表現していると考えられます。彼の作品における「消失」や「空間の解放」といったテーマは、まさにこの日食という出来事にインスパイアされた可能性があります。

また、モナ・リザの肖像が赤い線で横切られていることにも注目すべきです。この赤い線は、視覚的に作品に対して強い印象を与えると同時に、マレーヴィチが「モナ・リザ」の美術的権威を解体し、それを新たな視点から再構築しようとする試みを象徴しています。赤い線は、モナ・リザの肖像がもはや神聖で絶対的なものではなく、単なる芸術作品として捉えられるべきであることを示唆しています。

「ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション」は、マレーヴィチがスプレマティスムに至る前段階にあたる作品でもあります。スプレマティスムとは、形態や色の純粋な表現を追求する芸術運動であり、物理的世界の描写を排除し、純粋な抽象を目指すものです。この作品における幾何学的形態の強調や、モナ・リザを抽象的に再構成する方法は、彼がスプレマティスムに向かって進んでいる過程を示しています。

マレーヴィチは「ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション」において、古典的な美術を脱構築し、現代的なアプローチを取ることで、絵画における新たな視覚的言語を作り上げようとしました。この作品は、彼が「物質の形態」から「純粋な形態」へと向かう道のりを示すものであり、抽象芸術への最初の大きな一歩を踏み出すための試みでした。

「部分日食」という言葉は、単に作品を説明するものではなく、観客との関係性において重要な役割を果たしています。マレーヴィチはこのインスクリプションを通して、絵画が観客に対してただの視覚的な体験であるだけでなく、感覚的・精神的な影響を与えるものであることを強調しています。日食という現象が持つ神秘性や一時的な遮断の感覚が、観客に対して作品を「異常」かつ「強烈」な体験として呈示する手段として機能しているのです。

また、このような新しい芸術のあり方は、観客に対してただ単に美術を享受させるのではなく、観客自身がその意味を解釈し、自己の感覚や思想を投影することを促します。マレーヴィチは、この作品を通じて観客に対してその解釈の自由を与え、芸術に対する新しいアプローチを提案したのです。

「ラ・ジョコンダ(部分日食)のコンポジション」は、カジミール・マレーヴィチが西洋美術の伝統から脱却し、抽象芸術へと向かう過程を象徴する重要な作品です。ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を基にしながらも、それを幾何学的形態で解体し、新たな視覚的言語を生み出すことで、マレーヴィチは古典主義を超越し、現代的なアプローチを試みました。この作品は、彼がスプレマティスムを発展させる前の重要なステップであり、また、芸術と観客との新しい関係性を提案するものでした。

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